活用事例

「LINEでパーソナライズを追求する」複数ブランドで取り組む、資生堂のLINE活用

ざっくりいうと

  • 資生堂では、自社Webサイト「ワタシプラス」の他、展開する各ブランドで複数のLINE公式アカウントを活用。
  • LINE ビジネスコネクトも導入し、ID連携を通してアカウント間のユーザーデータ連携も可能に。
  • ブランドの世界観を守りながら、ユーザー一人ひとりへの配信メッセージの最適化を追求している。

複数ブランドを保有する企業がLINEの活用を考えるとき、「ブランドごとにアカウントを保有すべきか」は悩むポイントの一つだろう。コスト面や運用体制、ブランドイメージへの影響など検討すべき要素は多いが、最近では、複数ブランドのアカウントでLINEを横断的に活用する企業も出てきている。今回はそんな企業の一つである資生堂ジャパン株式会社(以降、資生堂)の取り組みを紹介する。

左から資生堂ジャパン株式会社 EC事業推進部 仙田氏、川口氏、吉本氏、メディア統括部 飯田氏

ブランドごとに異なる世界感でユーザーに接したい

資生堂は、自社Webサイト「ワタシプラス」の会員獲得を主目的として2012年に「資生堂 ワタシプラス」LINE公式アカウントをオープン。さらに、CRMシステムの一環として2015年8月にLINE ビジネスコネクト(*1)の活用を開始した。「One to Oneでお客さまとのリレーション強化」をコンセプトとする「ワタシプラス」とLINE ビジネスコネクトの機能がうまくマッチし、「一斉配信でボリュームを獲得して、LINE ビジネスコネクトで質のアプローチにつなげていく」という運用を行っている。現在では友だち数が2300万人を超え、国内有数の規模を誇るLINE公式アカウントである。

その一方で、2016年に「dプログラム」、2017年には「BENEFIQUE」「TSUBAKI」「イハダ」「WASO」といった各ブランド独自のLINE公式アカウントも開設され、顧客とのコミュニケーションを開始している。

(*1)LINE ビジネスコネクトとは、LINEが提供するAPIを通じて「友だちごとの個別配信」や「友だちとの双方向コミュニケーション」を行うことができるサービス。このAPIを通じて、ユーザーのLINEアカウントと企業の持つ会員IDなどの情報を連携させることができ、LINEでOne to Oneのやりとりが可能になる。

資生堂が運用するLINE公式アカウント(2017年12月時点)

資生堂が「ワタシプラス」とは別に、ブランドごとの公式アカウントを運用している理由は二つ。一つは、それぞれの目的の違いである。EC売上への貢献とブランドへの貢献が主目的の「ワタシプラス」とは異なり、ブランドアカウントは認知獲得や興味喚起といったブランドリフトから、店頭やECでの購買まで一気通貫で促進するコミュニケーションの実現を目的に据えている。

次に、ブランドごとに異なる世界感が挙げられる。「ワタシプラス」アカウント上での配信は「ワタシプラス」の運用目的やトンマナに沿ったものにならざるを得ず、異なる世界感を持つブランドごとの“人格”が表現できない。ブランドを中心としたコミュニケーションを行う会社の方針もあり、それぞれの世界感でコミュニケーションがとれるLINE公式アカウントをブランド別に開設することにしたという。

LINE公式アカウントは“第二のブランドサイト”

資生堂がユーザーと行っているコミュニケーションのパターンは大きく二つにわかれる。

一つが、ブランドサイトにあるようなコンテンツを配した “第二のブランドサイト”としての活用だ。資生堂はLINEをFacebookやTwitterなどのSNSとは異なる位置づけと捉え、LINE公式アカウントをオンラインとオフラインをブリッジさせ認知から購買まで幅広く貢献する存在と考えている。例えば、オンラインでブランド認知を高め、オフラインでのマストバイキャンペーンでの購買につなげるといった例がわかりやすいだろう。ブランドアカウントをLINEの中にあるブランドサイトのように位置づけ、その上でひと通りブランドが体験できる(認知につながる動画も見られるし、店舗検索もできるなど)という機能をもたせようとしているのだ。

「LINEはペイドとオウンドとアーンドの間のような位置づけというイメージで捉えており、公式アカウントの中で認知から購入までをひと通り完結できるような設計もできると思っている」と語る飯田氏

もう一つは、「dプログラム」アカウントのbotを活用した「肌タイプCHECK」のようなインタラクティブなコミュニケーション。シナリオに基づきユーザーとのやり取りを行っていくLINE ビジネスコネクトならではの活用法といえる。

アカウントの役割を活かした相乗効果も

「ワタシプラス」アカウントとブランドアカウントの両方の公式アカウントを友だち登録しているユーザーに対しては、公式アカウントの目的と特徴に応じた連携も考えられている。

「ワタシプラス」アカウントにはECへの貢献に加え、ブランドへの貢献も大きな役割として期待されており、ブランドアカウントを大きく上回るリーチ力(友だち数)を活かしたブランド認知獲得施策を行っている。「ワタシプラス」でブランドを認知し、情報に興味を持ったユーザーとさらに“深い”コミュニケーションを行うためにブランドアカウントへと誘導するのだ。

ブランドアカウントは、主にプロモーション動画などのコンテンツを配信しながら、ブランド理解の促進や興味喚起をといった役割を担い、最後の購入やリピートといったところを再度「ワタシプラス」に託す。このような連携ができるのも、異なるタイプのLINE公式アカウントを保有するメリットといえるだろう。

セグメンテーションの精度を高める3つの手法

ブランドロイヤルティを向上させるためには、パーソナライズされた最適な情報を届けていく必要があり、そのためにはそのユーザーのことをよく知らなければならない。公式アカウントを開設してすぐには的確なセグメンテーションを行うことはできないが、それを可能にするための施策は行っていくべきだと資生堂では考えている。

友だちをセグメントするために、資生堂は三つの手法を取り入れている(または検討している)。アンケートによるユーザー情報の把握と、ワタシプラス会員のIDとの連携、および複数公式アカウントを友だち登録しているユーザーのアカウント間共有である。

アンケートは、スタンプをダウンロードするときの条件として、またはキャンペーン応募の条件として実施することが多く、例えば「dプログラム」アカウントでは、アンケートをもとにユーザーの肌タイプを分類し、それぞれのタイプに応じた情報配信を行っている。

「dプログラム」LINE公式アカウントでは、トーク上で行える肌タイプチェックを実施してサンプル品のプレゼントページにつなげている

ワタシプラス会員とのID連携も、「ワタシプラス」アカウントと一部のブランドアカウントで取り入れている。公式アカウントの友だちがそもそも「ワタシプラス」の会員かどうか、会員であればどのブランドが好きで何を買っているのかなどを把握することもできるという。

「ワタシプラスの会員情報との連携は、実際の購買履歴まで追跡できるのでアカウントにおけるコミュニケーションの効果測定の観点からも有用」と語る吉本氏

最後のユーザー情報の公式アカウント間共有は、企業が複数の公式アカウントを保有しているからこそできる連携だ。通常であればひとりのLINEユーザーが複数の公式アカウントの友だちになっていたとしても、それぞれの公式アカウントに認識されるユーザー識別子はすべて異なる。しかし、同一企業(資生堂)が保有する公式アカウントにおいては、同じユーザーであれば同一のユーザー識別子で認識することができるのだ。

公式アカウントを横断したデータ連携はこれから取り組む部分が多いとのことだが、例えば「ワタシプラス」アカウントとブランドアカウントの友だちになっているユーザーに対しては、「ワタシプラス」アカウントからそのブランドに関する情報を配信するといったことなども考えているそうだ。

効果測定はブランドの目的に合わせて

LINE公式アカウントを評価するためのKPI指標は、「ワタシプラス」とブランドアカウントで運用の目的がそもそも異なるため、それぞれで設定しているという。

「ワタシプラス」がKPIとするのは、まずWebサイトへの送客数。「ワタシプラス」サイトへの送客数と、ブランドへの貢献という観点から「ブランドサイトへの送客数」も重要な指標だ。そして、CRMを活性化していくためのID連携数を増やすという観点から「Web会員IDと連携している友だち数」、および以上すべてのKPIの源泉となる「有効友だち数」(LINE公式アカウントの友だちのうち、ブロックしていないユーザー)が挙げられる。

「ECでの売上への貢献」については、最終的な売上がサイトの仕様による部分も大きくLINEのみでコントロールすることは難しいことから、CVは結果として把握するにとどめている。まずLINEでできることとしてECサイトへの遷移(CTR)を意識し、PDCAにつなげることを心がけているということだ。

一方でブランドアカウントの評価指標はブランドリフトである。LINEだけでなく、各ブランドでは、ブランドリフトをアンケートによる意識ベース、アクションログによる行動ベースで測定していて、LINEにおいてもデータに基づく評価を行っているという。ブランドアカウントが新しい接点としてターゲット顧客と出会うところから、購入意向が高まり実際のアクションにまでつながっているという効果を実感しているそうで、他ブランドの新規活用の可能性についても検討しているという。

コミュニケーション戦略に合わせてLINEを活用する

LINE活用を検討している企業の担当者(特に複数ブランドを保有する企業)へのアドバイスとして、意識すべきことを聞いた。

まずは、LINEをブランドのコミュニケーション戦略と連動させることが重要、ということ。LINEはあくまでコミュニケーションをするための手段であり、LINEを使うことが目的となってはいけない、という。ブランド認知から購買、リピートまでのどこでどのようにLINEを活用し、それを評価するためのKGI・KPIは何なのかをしっかりとプランニングできてはじめて、一つのアカウントに集約すべきか、それともブランドごとに個別で持ったほうが効率的なのかを、コスト面も含めて判断すると良いという。


「先にLINEから考えるのではなく、ブランドが生活者にコンテンツを伝えるための戦略に合わせてツールを選ぶべきで、それにLINEが合う場合に活用すればよい」と仙田氏は語る

資生堂ではブランドアカウントの運用を1~3名のブランドのマーケティング担当者が兼任で担い、それをメディア統括部やEC事業推進部などが横串でサポートしていくという体制をとっているという。どうしても手段が目的化しがちななかで、LINEありきではなく、何のためにLINEを活用するのか、ブランドのコミュニケーションとどう連携させるのか、といった視点を各公式アカウント担当者に植え付けていく土壌づくりが必要とも話す。

また、メッセージを配信する際に、最初からユーザーのセグメントを細かくしすぎないことも、重要なポイントである。細かくしたいという欲求は誰しもあるが、セグメントを切るたびに情報配信の設定に必要なリソースが増えていくこと、その一方で対象となるユーザーボリュームは小さくなっていくことは意識したい。運用経験を重ねるなかで、適切なセグメントのバランスを見出していきたいものである。

いかにパーソナライズされたコミュニケーションができるか

資生堂がLINE活用を通じて今後も目指すのは、LINEの友だち一人ひとりに対する最適なコミュニケーションの追求である。それがLINEアカウントと友だちになってくれた顧客を大切にすることであり、顧客との継続的な関係性維持につながっていくと考える。

「横断的な生活者起点の情報と、個に最適な情報をLINE公式アカウントから発信することで友だちとのコミュニケーションの精度を一つひとつ高めていきたい」と語る川口氏

データに基づきユーザーと個別かつ双方向のやり取りができるLINE ビジネスコネクトは、資生堂の求めるパーソナライズされたコミュニケーションの実現に適したサービスといえる。さらに、資生堂はLINEが「プラットフォーマー」としてユーザーとのコミュニケーションを発展させていくなかで、それぞれのユーザーをより良く知るために情報の取得手段を多様化させ、情報精度も向上させることを期待している。LINEを通じて得られるこれら情報をもとに、資生堂がいかにパーソナライズされたコミュニケーションを作り上げていくのか、多くの企業にとっても非常に参考になることだろう。これからも資生堂のLINE活用から目が離せない。

 

豊田義和
株式会社トライバルメディアハウス
マーケティングデザイン事業部 チーフストラテジスト

2011年にトライバルメディアハウス入社後、ソーシャルメディアマーケティングの戦略策定や効果測定など多数のプロジェクトに携わる。特に調査領域において新規サービスの立ち上げに従事し、現在はチームリーダーとして、主にデータに基づいたマーケティング課題の解決に取り組んでいる。2016年からはLINEマーケティングを兼務。共著に『ソーシャルメディア白書2012』(翔泳社)、『いちばんやさしいLINE ビジネスコネクトの教本』(インプレス)。

参考

RELATED ARTICLE 関連する記事

ブログ一覧に戻る